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NotebookBlog20110402 - *産総研「つくばセンター放射線測定結果」を読む

目次

産総研「つくばセンター放射線測定結果」を読む


http://www.aist.go.jp/taisaku/ja/measurement/index.html で、埼玉の巻島はなぜ安心したか。

発端

今回の福島原子力発電所に関連して、とある SNS に

つくばで、この測定で、この数値なら、と(埼玉の私は)安心感を得られました。
@hayano ryugo hayano :「【測定法を詳しく知りたい方向け】放射性セシウムやヨウ素があることを,どうやって知るのか.その詳細を知りたい方は,こちらがオススメ.ゲルマニウム半導体検出器で測定した実際のデータをもとに,詳しい説明があります(つくばAIST).http://bit.ly/hRnOeH
( http://twitter.com/#!/hayano/status/51234432916520960 )

と書いたところ、高校の同級生の友人(文系へ進学)から、何故かと疑問が寄せられました。 一般の人はデータが理解しづらく、「データがあるから安心」とならないんですよ、と(大意)。

それに答えようと SNS やメールに書いたことをまとめてみたものです。 BriefHistory にあるとおり、私は工学部の機械工学科出身ですが、原子力や放射線は素人です。 あくまで素人の私見、かつ、学力的な素養もわかっている友人あてに書いたもの、ということをご承知おきください。

情報源

測定方法や元データに近い物が出されているといった情報の良質さ。

産総研つくばのページ( http://www.aist.go.jp/taisaku/ja/measurement/index.html )を見て、理工系の人間が嗅ぎつけた匂い(?)とでもいう雰囲気は、早野先生のこれらのツイートに端的に表れていると思います。

@hayano ryugo hayano 東電様,プルトニウムの測定結果を発表される場合も,数値を並べるだけでなく「いつ,誰が,何処で,どんな方法で,どんな機材で測定し,どのくらいの誤差があると見積もったか」についても...付記して下さるよう要望.→ @OfficialTEPCO
( http://twitter.com/#!/hayano/status/52147854260699136 )

@hayano ryugo hayano 言われてみれば,その通りだ... 普段の口癖がそのまま出ている. @yskutm: 学部実験指導みたい。
( http://twitter.com/#!/hayano/status/52149433617485824 )

@hayano ryugo hayano (僕らはこういうの見れば納得するのだが.産総研で http://www.aist.go.jp/taisaku/ja/measurement/index.html 測定されたガンマ線スペクトル図 http: //www.aist.go.jp/taisaku/ja/measurement/img/smear.jpg 装置の説明や,バックグラウンドとの比較もあって模範的 → @OfficialTEPCO)
( http://twitter.com/#!/hayano/status/52158550688014336 )

そういう風に教育され、感化されてしまっているってことですね。

安心感のうちで、「情報源(ソース)としての良さ」が表れています。一次情報であることが明白です。さらに、産総研は昔の工業技術院ですから、日本の単位系や測定の元締めというイメージで、測定関係の事柄は信頼感を持てます。

早野先生のツイート http://twitter.com/#!/hayano は目を通すことをおすすめします。 東京大の先生ですが、工学ではなく理学の高エネルギー、予算は科研費、マスコミの取材は受けないとのことなので、「御用学者」とは一線を画しています。

放射線量の人体への影響、対数スケール、有効数字、単位など

Team Nakagwa こと東大病院放射線治療チームのツイート http://twitter.com/#!/team_nakagawa やブログ http://tnakagawa.exblog.jp/ は読んでだいたい理解しているという前提にします。

ただし、直感的な数字の扱いは理系(とくに工学・技術系?)でないと身についていないのかもしれません。

体に対する影響、シーベルトを読むときは、放射線量は対数で考えています。 (対数スケールで測るのは、地震のマグニチュード、音の大きさ(デシベル)など、身の回りにたくさんあります)

有効数字はせいぜい1桁あるかどうかという感じですね。素人目には、最上位に四捨五入か二捨三入(数字を1か5か0に丸める)で考えれば十分そうです。 (細かいことをいうと、対数目盛での「半分・半桁」は、1→5→10 ではなく、1→3→10 くらいです)

報道では、シーベルト毎時と、積算のシーベルトがごっちゃになっています。(3週間も過ぎたのにw)

長期的に住む場合の影響として、積算(シーベルト)は1年間で計算しておけばよさそうです。 1年 = 365日 = 365×24 時間 = 8,760 時間 ≒ 10,000時間 となるので、1万で割ったり掛けたりすれば、すぐ換算できます。 同じく、1ヶ月あまり≒1000時間、半週間≒100時間、半日≒10時間、即刻≒1時間、などと考えておけばよいでしょう。

放射線量の目安は、積算(1年)で値(桁)の大きい方から並べると、

という雰囲気です (鹿児島県の「自然界での放射線」 http://www.env.pref.kagoshima.jp/houshasen/kouhou/k06.html のイラストがわかりやすい) 。 これらを、想定する時間で割れば、線量率 (Sv/h) になります。

(事故の最中ということでここでは短・中期的な影響を考えていますが、長期的には、生涯積算 100 mSv で 0.5 % ほど癌死亡の危険が増す(子供は 30 mSv)と考えるようです。)

年齢、性別による放射線の影響の違い

体に対する放射線の影響は、年齢、性別によって扱いがかわってきます。

若ければ若いほど影響が激しく、乳児、幼児、と年齢が上がるにつれて影響は減ってきます。 女性では、妊娠(の可能性)があると赤ちゃんと同じく(もっと)影響大なので、男とは考え方を変える必要があります。

影響を見積もるための係数を見ていると、乳児では大人の10倍くらい(一桁)体に悪いようです。(自分が赤ちゃんの父親なら、さらに安全係数を10とって、10×10=100倍(二桁)くらいを採用します。小学生なら10倍(一桁)とか、テキトーに) 逆に、40歳以上はヨウ素剤の配布対象外というくらいで、老人はあまり細かく考えてもしょうがないことになります。

(私は、このあたりは、ごく最近、数字として(やや定量的に)認識するようになりました。定性的に認識していたときは、とりあえず、子供は一桁安全側に見積もればよいだろうと考えていました――その見積もりで間違ってはいないようですね。) 私は、男、40代、心配すべき家族なしですから、その観点でデータを限定的に解釈して判断しています。

ここまでが、産総研つくばに限らず、どこのデータを読むにしても必要になる知識です。(あくまで、私の見方ですよ)

産総研の「つくばセンター放射線測定結果」

では、産総研の「つくばセンター放射線測定結果」のデータをなるべく上から見ていきましょう。

<測定場所>茨城県つくば市東1−1

私がいるのは埼玉県北本市で、この場所でどんな悪影響があるかが関心事です。

大気中に漂う放射性のガスやホコリが風に乗って(空気として)やってきたり、地面に落ちたりするのが嫌です。 (水源に落ちて水に入るのも嫌ですね。)

地図で見ると、福島原発から、筑波も埼玉も似たり寄ったり、だいたい 200 km くらいでしょうか。これくらい遠ければ、遠いほうへ数十 km は誤差範囲ですね。 どちらも遠く離れた関東平野、ただし、海に近い筑波のほうが風向きが不利ですが、同じと見なしておきます。

たまたまとは言え、良質な観測データが地理的に近い条件の所で測定されていたのは幸運です。 私の最初の感想「つくばで、」とは、原発からの遠さと方向が似ていることと、測定機関・データの信頼性の両方の意味が込められていました。 利己的な満足感ですけど。 (つくばや埼玉より北のほうへ、原発に近づくにつれ、どんどん危険が増していくはず。しかし、つくばセンターのデータだけではわかりませんし、ここでは論じません)

<最新の測定結果>

表の数値は「放射線測定結果(μSv/h)」なので、体への影響は、それを積算して何時間浴びるか、によります。

最近の数字(約0.2μSv/h)より大きめの値で、安全側に考えて2倍くらい、平均して 0.5 μSv/h が続くと仮定します。 1年程度≒10,000時間なら、0.5 [μSv/h] × 10,000 [h/年] = 5 [mSv/年] 程度です。 「図 日常生活で受ける放射線の量」と見比べると、世界平均 2.4 [mSv/年] の2倍ありますが、同じ桁内ですし、10 [mSv/年] の地域でも安全とされていますから、問題ありません。

子供は10倍危ないと仮定しても、十分に許容範囲内です(つくば以遠≒関東平野なら)。

放射性核種についての測定結果

「図 ビニールシート上に降下してきたほこりなどを採取した試料から放出された放射線のエネルギースペクトル」を眺めます。

縦軸が Counts / 1000s と書いてあるので、千秒間に数えた放射線数、つまり、ベクレルに相当します。

横軸は Energy / keV と書いてあるのでエネルギー、その単位は(キロ)電子ボルトです。電磁波ならば電子ボルトから波長・周波数に換算できるので、ガンマ線の波長・周波数を示していることになります。

まず、全体的な傾向を読み取ります。

青線がバックグランドですから、この量は原発事故前から存在しています。つまり、青は文句なしに確実に安全な(と見なせる)レベルです。

緑が比較的最近の落ち着いてきた量の放射線です。青より半桁〜一桁大きな値です。 体の中に常時存在する放射性カリウム(K-40)に着目し、緑と青のピークを比べると、大差ありません。 ベクレルからシーベルトへ換算しないと人体への影響はわかりませんが、緑程度の量が降り注いでいるときに上記の <最新の測定結果> の範囲なので、それほど心配する必要はなさそうです。

スペクトルの赤(3月15日)はバックグランドより2桁大きな値で、あまり気分はよくありません。しかし、短期間で緑に減ったので、一時的なものです。

もう少し細かいところを眺めましょう。

スペクトルの図には、どのピークがどの核種から放出されたガンマ線か示されています。

水道水やホウレンソウ騒動では、ヨウ素131 (I-131) の値ばかり報道されました。 子供の甲状腺ガンが放射性ヨウ素で生じたことから着目されますが、他の放射性物質も飛散しているはずです。 他の放射性物質がどれくらい飛んでいるのかというデータがほとんど公表されていない(または一般人の目に触れない)時期に、つくばセンターのページを目にしました。 ちゃんと測定しているんだ――少なくともつくばでは、という安心感は大きかったですね。

赤のピークを比べると、I-131 のピークが最大です。一番影響が大きそうなヨウ素131の放射能が一番大きく、他の放射性物質も検出されている範囲では同じくらいのレベルにあるのは安心材料です。

(ただし、この測定法ではよくわからない核種も多く、ピークが顕著に出ないものは判定不能のようです。このスペクトルをきちんと読み取れるのは数少ない専門家のみのはず。)

表 検出された核種の放射能

図 検出された放射能の推移

これらの表と図に目を移すと、代表的な核種の放射能(ベクレル)が載っています。

3月15日に大きなピークがあるのは、原発での爆発か何かの大量放出と思われます。 原発で大量放出が続いていれば大きな値が続いているはずですが、順調に減っています。 大量放出は収まっているようです。原発での作業が順調(放射性物質の酷い飛散はない)だろうと推測できます。 (現地や周辺地域のことは…考えたくない)

3月21日頃は雨だったようで、放射性物質が雨で地上に落ちてきたようです。それも一時的なので、(問題になるような)水道水のヨウ素131汚染も短期的だろうと予測できます。

乳児への規制値以上の水を何日か飲んでも、大人(私)なら問題ないはず。乳児でも、その後汚染の少ない水を飲んでいれば、積算値では問題ないことになります。 水道水に多少の放射性物質汚染が続きそうなので「安心」はできなくなりましたが、私の年齢からすると、内部被曝の危険の度合いが低いことを納得するしかありません。

野菜には放射性物質が蓄積されていくはずですが、ビニールシート上のほこりの量と畑全体の土の量を比べると、たぶん、関東平野では、環境放射線と同じ程度(桁数)の放射能になっていく(といいな)と期待しています。 (子供がいたら、風評被害を助長する行動をとりそうな気がします…)

産総研の高純度ゲルマニウム半導体検出器とその計測システム

見てもよくわかりません。電気系のごつさからして古そうですね。 とはいえ、見る人が見ればどんな計測システムか見当がつくでしょうし、知らなくても安心感は得られます。 少なくとも、産総研が自分のところで意味を考えながら測定しているのだろうな、ということはわかります。

とりあえず、以上です。

雑感

私が半年ほどお世話になった某大工学部応用化学科(高分子)の研究室では、「データをして語らしむ」が方針でした。言葉ではなく、実験を重ねたデータで示し、データから読み取れということですね。分析系のところはだいたいそうなのではないでしょうか。

埼玉大学工学部機械工学科の設計・製図の授業では、文章を使って説明するな、設計図で示せということを最初にたたき込まれました。 ただ、びっくりしたのですが、「工学」設計では(運がよくても)実験値から推測したグラフや表を読み取って使います。理論値ではなく実験値ばかり。 そんなものがいくつもありますから、誤差が降り積もって何が何だか。 物作りの「技術」、つまり実際の設計では、個人や組織の経験とカンでいい加減に設計・製作するだけです。 さすがに安全上で怖いところは「安全率」を大きめに掛けて設計します。 結局、綱渡りでも、システム全体を外から見て、動いていればよしというわけですね。結果として物を作れればオッケー。 必ず不具合や問題点はありますから、それらが発覚したら、その都度対処していきます。 世界に誇る日本製品は、改良が続いている物です。少量生産品や試作品、単品はひどいもんですよw

そんなわけで、理学系の人たちは工学系の人間が出しゃばってくるのを嫌います。めちゃくちゃにされるから。 高校の時には、理学と工学にこんな違いがあるなんて考えもしませんでした。(いまだに気持ち悪い)

たぶん、原子力発電所も底に流れる思想は同じなんじゃないでしょうかね。 医学も、人を殺すほどの人体実験はできないので、いい加減さは工学・技術以上のような印象があります。

そんな人たちに、安全か危険かの2値で、理路整然ときちんと白黒つけて安心させろ、というのは無理なんじゃないか…と思うんですけど…ね(爆) 多数のいい加減なパラメータで導き出され、広く分布する値、それに対して、各個人・組織の思想をもとにカンで決めた基準値やら線引きやらをしても、みんな言うことが違ってきますよね。 システムの振る舞いなんて混沌として推測困難です。 物理的な現象でも、値を測定できるということ自体が希有なんだし(元、測定器メーカの私の実感)。

やはり、遠い分野の人にわかるように書くのは難しいです。 何がわからないのか、何を知りたいのか、かなり絞った上で質問の仕方を工夫してくれないと、文にするのは難しい(お手上げ)。

医者と患者の問答も似たような困難があるのかもしれませんね。


(2011/04/02)